アンチになった話

 あまり何かのアンチになった記憶がありません。そりゃ「ジ。○○。ルのおばはんおばはん言い続けるコントがメチャクチャ気に入らない」「西○○ナの歌詞が生理的に受け付けない」くらいの好き嫌いは僕にもありますけれど、アンチっていうのはもっと、その人のありとあらゆる行動を人格的な面に絡めて否定する、くらいに偏執的なものだと思うんですよね。物心ついてからの僕はあまりそういうことをしないように気を付けています。ここで言う「物心ついてから」は大学生になってから以降のことです。僕の物心は遅れてやってきた。
 そんな平和主義者な僕ですが、「セレマのCMの情報量の少なさに腹が立って仕方がない」とか言う割には平和主義者な僕なのですが、今日、ついに僕はとあるもののアンチになってしまいました。どうしても彼を受け入れられません。彼のやることなすこと、全てにいちゃもんをつけたくて仕方がありません。彼の存在そのものが気に入らないのです。
 彼のことを紹介します。

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 それいけ!アンパンマンの登場人物、にんにくこぞうです。
 草履で全力疾走するな。脱げるだろうが。

 キャラ設定が「にんにく寺で修業中。慌て者のため、失敗ばかりしちゃう」。まあそれくらいは別に良いんですけど、とにかくこいつ人の話を聞かない。聞いていると思えば聞き間違いをするし、人が喋り終える前に走り去っていく。対話をしろ。言葉は唯一人間のみに与えられた叡智であり、正しく対話の出来ない者は吠えることしかできない獣と同じだ。まあそもそも人間どころか獣ですらないんですけど。にんにくだし。んでこいつ「タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ」って口に出さないと走れない。口で表現するな、足音は足で奏でろ。あと「タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ」とか言いながら走ると息が吸えなくてしんどいから。植物ごときには分からないことなのかもしれないけれど。

 このにんにくこぞう、賢さに振るべきだったパラメータを全部そっちに振ったのか身体能力は結構高くて、身軽に行動できるみたいです。今日観たお話の中では、にんにく寺のにんにく和尚からお届け物を頼まれて、案の定宛先も聞かずに「タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ」言いながら飛び出していきました。その道すがら、木々が鬱蒼と生い茂る森をピョンピョンピョンピョン蚤みたいに跳ねながら通過していって、途中で通りすがりのばいきんまんの乗っているUFOを踏みつけます。これに怒ったばいきんまん、にんにくこぞうをとっちめようとします。セリフは覚えてないけど確かこんな感じ。

「待て、この小僧!」
「げえっ、ばいきんまんだ!」

 げえっ、じゃねえよ。お前が踏んだんだよ。不注意で軽率なガキにいきなり踏まれたら誰だって怒るよ。その後に「ドキンちゃんもいまーす♡」と言いながら登場したドキンちゃんが苛立ちしか生まないこのお話の中の唯一の癒し。ドキンちゃん可愛いな、そりゃばいきんまんもベタ惚れしますわ。そんなばいきんまん、にんにくこぞうに正義の鉄拳を喰らわせようとしたところ、颯爽と現れたアンパンマンの手によってバイバイキンされました。とばっちりも良いところだろ、これ。なあアンパンマン、君の行動は本当に正しかったのか? 守るべきものを間違えてはいないのか? 

 あともう何がダメかって、芽が生えてるよねこいつ。しかもちょろっとだけ。ちょろっとだけしか生えていないということは、「芽も食べることを念頭に生産されたにんにく」ではなく「管理不行届きでうっかり芽の生えてしまったにんにく」なんですよ多分。新鮮でない。にんにくこぞうのくせにもう賞味期限が怪しいわけです。香りが勝負のにんにくが新鮮さを失っているって、それは最早アイデンティティの喪失じゃないですか? 第一印象も悪いですよね。「芽が生えてる人」で皆に覚えられてしまいます。こいつが何か良いこと言ったとしても「でもこいつ、芽が生えてるしな……」って思われること請け合いです。芽が生えていることはデメリットしか生まない。
 さらに言うなら、にんにくの香りは料理から漂うものなればこそ良い香りだと感じるのであって、年がら年中にんにくの香り漂わせているやつがいたらそれはただのにんにく臭い人ですよ。にんにく寺でにんにく和尚に仕えるにんにく小僧。臭いの三乗。にんにくトリプルスーパーデラックス。それはそうと、にんにく寺っていったい何を祀っているお寺なんだろう。やっぱりにんにく神とかかな。相当臭いそうだな。市役所に近隣の住民から苦情がたっぷり届いているに違いない。存在が公害だろ、もう。

 もうだめだ、こんな人とは絶対仲良くやっていけねえ。いや人じゃなくてにんにくだけどさ。アニメの中の存在でよかった。絶対に画面の外側に出てこないでくれ。出来たらアニメの中でもさっさとペペロンチーノの材料になってカバオ君に美味しく頂かれるなどしてくれ。頼むから。

 

 今日、これだけ悪口を並びたててみて、気付いたことがあります。悪口は楽しい。こんなに軽快に文章書けたこと、なかなかありません。文章が論理的かどうかとか、言いたいことが伝わるかどうかとか、そんなこと一切考えなくていい。ただ貶す。貶すための文章を書くのはすごく楽しいです。だからみんな悪口を言いまくるんだろうな。女子会とかで。今のは女子会に対する偏見ですけど。
 だけど、楽しむために人を傷付けるのは、何か間違っていると僕は思うのです。誰かを馬鹿にすることは、その人を言葉の拳で殴っているのだと言うことを忘れてはいけません。悪口は暴力なんです。それは、悪口の対象が身近な人だろうが手の届かない著名人だろうが同じことです。
 それでももし、悪口を言いたくなってしまったのなら、架空のキャラクターを対象にしましょう。それなら誰も傷付かなくて済みます。キャラクターのファンは怒るかもしれませんが、ほとんどファンのいなさそうな奴を選べばその点は問題ありません。
 例えばそう、

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 にんにくこぞうのことを。
 寄り目するな、ちゃんと前を見ろ。生えた芽を切れ。その口、上唇に対して下唇が長すぎるだろ。フォルムが永沢君のパクリ。生えた芽を切れ。生えた、芽を、切れ。