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降ってくる話 ・ 偽物の話

 なんか降ってこないかなあ、って僕はずっと思っている。

 なんでもいい。なんでもいいけれど、雨や雪みたいにありふれているものよりはもっと突飛なものがいい。UFOとか、恐怖の大王とか、飛行石を身に着けた少女とか、「おーい、でてこーい」って声とか、巨大な隕石とか、巨大なハンマーとか、巨大なハンマーを打ち砕くために作られたペンギンみたいな巨大な兵器とか。

 要するにいつもの暮らしをぶっこわすような何かが偶然現れるのを、僕はなんとなく待っている。いつもの暮らし以外のどこかに繋がっていそうなものは目に見える範囲では空くらいしか見つからないので、この適当な願いは全面的に空に託される。こんなどうしようもない願いを託される空もきっとたまったもんじゃない。

 一応断っておくと、たとえ何かが降ってきたとしても僕の生活が微動だに変化しないであろうことは重々承知の上である。ある日突然空から降ってきた塩の柱があちらこちらに突き立っても、多分僕はその横をいつも通りスマホ片手に歩きぬける。僕自身が塩の塊に変わらなかったとしたら、の話だけれど。で、そこまで考えて別に僕は空から何か降ってくることそのものを望んでいるわけじゃないんだろうとやっと気付く。

 僕が望んでるのは生活の変化じゃなくて、僕自身の変化なのだ。なんか変わらないかなあ、って僕はずっと思ってる。思ってるばかりじゃ何も変わらないから、とりあえず煙草を吸ってみた。例によって思いっきりむせて、とりあえず今日のところ、むせた回数だけは変化した。

 

 ・・・

 

「ああ、こいつぁ本物だぁ」と、他人を見ているとそう思うことが時々ある。

 例えばホームに入ってくる電車、玄関の扉に挟まっていたチラシ、三角関数のグラフ、点滅する信号。そんな感じのどうってことのないもの。そんなありふれたものからやたら多くの情報を引き出して、何か考えている人を発見する度に「こいつぁ本物だぁ」と僕はなんとなく思う。この人にはどうやら、信じられないくらい多くのものが見えているらしいですよ。僕には何にも見えないですね。それはもう、残念なくらいに。

 ここで何を指して「本物」だと思うのかは僕本人にもよくわからない。誰かに教えてほしいけれど、僕本人がよくわからないことを他の誰かが教えてくれるわけもなく、実に困ったもんだ。

 本物があるからには偽物も存在するのであって、何が偽物なのかというとそれはきっと僕以外にはありえない。僕の何が偽物なのかと考え始めるとそれは僕をとことん落ち込める方向にしか進んでいかないから、ここらでもうやめておこう。メーカーの保証書が僕に付属していないことは多分関係がない。

 こいつらも偽物なんじゃないかって、僕は周りの人を見ながらつい考えてしまうけれど、そこはもう各々の判断に任せるしかない。僕に知るすべはない。良くできた模造品は本物と見分けがつかない。そして大体の人間は良くできている。

「本物になりてぇなぁ」って僕は思う。そう思うこと自体が僕が何らかの偽物である証拠であり、本物になりたいと願う本物なんて存在しないから僕が本物になれる可能性は万に一つもなく、ああもううるせえなあ、それでも俺は俺なんだからしょうがないだろうが。保証書もついてないし何かに酷似しているかもしれないし一山いくらで買いたたかれてるかもしれないけどさ。うるせーーーーーーー!! 馬鹿にすんなーーーーーーーー!! 噛むぞコラーーーーーーーーー!! 今の恫喝は誰宛なのかというと、これもやっぱり自分に向けて。