罠にかかっていたハブを助けた翌日、胴の超長い美女が訪ねてきた。彼女は「覗かないで下さいね」と言い残して部屋に籠もり、勿論俺は部屋を覗いた。部屋の中には琥珀色に輝く液体とつぶらな瞳のハブが入った瓶が置いてあり、何もここまでしなくても、と瓶を抱きしめて俺は泣いた。ハブ酒は美味かった。
— 鰐人 (@wani_jin) February 11, 2015
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「右を失くした」と言われて、当然僕は鼻で笑う。右を失くしたのなら、左も失くして然るべきだ。右だけ失くすなんてそんな馬鹿な話があるものか。なあ、と右隣にいた友人に話しかけようとして、そこに右が無いことに僕は気付く。そうして僕らは仕方なく、残された左半分へと失った右を探して旅に出る。
— 鰐人 (@wani_jin) February 24, 2015
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「今日は同期飲み! 凄く楽しかった!」とアップされたその写真には、真っ暗な部屋の中にポツリと一人、居酒屋にいる客と心身の状態を同期することで仮想的な酩酊を体感できる装置に頭部を繋いだ彼女の姿。
— 鰐人 (@wani_jin) February 26, 2015
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道端に片方だけ落ちている手袋は、いなくなった片割れを探して夜な夜な泣きながら歩き回っている。ある日、手袋は見つけた。一つだけコロリと転がった、子供用の小さなスニーカーを。片割れ探しは相も変わらず続くけれど、なんだか辛くはなくなった。一つと一つは寄り添って、夜な夜な歩き回っている。
— 鰐人 (@wani_jin) April 5, 2015
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その女性は諸事情あって身体が糸でできてたんだけど、とある男に恋をしたんだ。常に彼と繋がっていたいと彼女はそう思って、自分の身体を作ってる糸の末端を男性の指にくくりつけた。さてそれから暫く経って、彼女の身体はどんどんほどけていった。男性は離れていくばかり。それでも彼女は幸せだった。
— 鰐人 (@wani_jin) April 7, 2015
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いつの頃からか、町外れの鉄塔に鉄の猿たちが巣くい出した。彼らは鉄屑を喰って鉄の糞をし、キーキーと金属板を引っ掻いたような鳴き声を上げる。どこから来たのかは分からない。しかし鉄塔の上で猿たちは、時折山のある方角をじっと見つめて動かない。あたかも二度と帰ることのない故郷を偲ぶように。
— 鰐人 (@wani_jin) April 21, 2015
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2XXX年、資源の採取から加工製造、各種サービス業に至るまであらゆる仕事が完全に機械化され、人は望むもの全てをボタン一つで手に入れられるようになった。ただ莫大な消費電力が発電所だけではどうしても賄えなかったため、人間には1日10時間、自転車型発電機のペダルを回す義務が課せられた。
— 鰐人 (@wani_jin) April 25, 2015
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道に並び立つ街灯は、実は生物だ。人通りのない深夜になると雄は電球を点滅させて雌に求婚の合図を送る。夫婦が成立すると光を通じて子を成す。産まれた子供は大変小さい。彼らはタンポポの綿毛のように風に乗り、まだ街灯の無い道へと飛んでいく。そして数年後には、その道を明るく照らすようになる。
— 鰐人 (@wani_jin) May 1, 2015
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自動筆記ペンを購入して以来、勝手に文字が書かれるおかげで字の汚い僕の報告書も「読めねえ」と上司に突っ返されることがなくなり大変重宝している。勿論この記述も自動筆記ペンだ。ただ一つ気がかりなことがある。自信が持てなくなってきたのだ。この文章を考えたのは本当に僕か? それともペンか?
— 鰐人 (@wani_jin) May 7, 2015
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「私、酔うとキス魔になっちゃうんだよね」と言っていた女の子が、ビールを一杯飲み干すごとにまるで魚の悪魔のようなおぞましい異形に変貌していった。
— 鰐人 (@wani_jin) May 12, 2015
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生まれたての活字は大変デリケートであるから、慎重に取り扱わねばならない。和紙や、光沢のある上質紙などを好みに応じて使い分けるとよい。スポーツ新聞の上などはもっての外だ。……あのけばけばしいゴチック体がお気に入りだというなら話は別だが。
— 鰐人 (@wani_jin) May 23, 2015
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女性型ロボットに恋した男。生身のままでは彼女と釣り合わないから、と手足から脳まで全部機械にとっかえた。そしたら心も無くなって、恋とか愛とかよく分かんなくなった。でもあのロボットの傍に居たかったことだけは何となく覚えているので、恋とか愛とかよく分かんないままで二体は寄り添い続けた。
— 鰐人 (@wani_jin) May 24, 2015
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「あ」と記す方法は一つではない。鉛筆で、キーボードのAで、親指のワンタッチで。「あ」は「あ」であったり「ア」であったりはたまた点や長音短音の組み合わせで表されたり、「あ」と鉛筆で書くのでも「あ」以外の部分を黒く塗りつぶしたって良いわけで、ともかく何一つとして同じ「あ」は宿らない。
— 鰐人 (@wani_jin) June 21, 2015
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この瓦礫の街には電波塔がそびえたっている。受信するものは何もなく、送信するものも何もない。しかしかつては電波塔としての役目を果たしていたらしく、となるとこれを電波塔と呼ぶ以外にはなく、電波塔である以上はどこかに届きそうな気がするので、ギターを背負ってよじ登り、てっぺんで僕は歌う。
— 鰐人 (@wani_jin) June 30, 2015
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この世で最も長い定規。あらゆるものを測ることができるが、この世で最も長いが故に他の何者もその定規の長さを測ることができず、今のところそれが最も長いことは他のあらゆるものを測ることができるという相対的な事実にのみ依っていて、この世で最も長い定規自身も「これで良いのか」と悩んでいる。
— 鰐人 (@wani_jin) August 21, 2015
苦肉の策として、他のあらゆる定規よりも重いことを実際に計量して示してみたりはしたものの、全てが均一に出来ていない限りは重さと長さに比例関係は成り立たず、それはこの世で最も重い定規であることを示しただけであり、この世で最も長い定規は未だに自分の長さを知りたくて知りたくて仕方がない。
— 鰐人 (@wani_jin) August 21, 2015
散々悩んだ挙げ句、この世で最も長い定規は開き直って「最も長いと俺自身が信じるのだから、俺は最も長いのだ」と言い出した。「それを否定するなら、俺より長くあってみせろ」と。今のところその傲慢さは誰も挫くことが出来ず、この世で最も長い定規は相も変わらず自分より短い何かを計り続けている。
— 鰐人 (@wani_jin) August 21, 2015
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目論見通り彼女はどんどん丸くなり、丸くなる過程で土俵に上がり黒星や白星を幾つかずつ上げてみたもののそれは彼女の求める星ではなく、「そろそろいいかな」と呟いた彼女は竹蜻蛉よろしく回りながら空へと飛んでいった。それから先どうなったかは知らないが、これが僕が毎晩天体観測をする理由だ。
— 鰐人 (@wani_jin) September 18, 2015