古い靴の話

 丁度セールで安くなっていたので、VANSのスニーカーを買った。と、こう言うだけでおしゃれに疎い僕はおしゃれピープルたちに馬鹿にされないだろうかと少し不安になるのだけれど、別にVANS自体はダサくないよね? VANSをABCマートで買うのはセーフだよね?

 ここで困ったのは、古い方の靴の行く先だ。keenのスニーカー。確か二年以上前にりんくうタウンで買ったもの。引きずって歩くためにソールはすり減っているし片方に至っては先端がめくれ、いつも出かけ際に急いでつっかけるせいでかかとは潰れてしまっている。

 それ以前は頭が悪かったので安かろう悪かろうな靴を買ってはすぐに履き潰すというローテーションを馬鹿みたいに繰り返していて、その愚かさはこの前友人と「安いから」といって鳥貴族でたらふく飲み食いしたら一人当たり5000円を軽く超えたというエピソードを鑑みるにまったく治ってはいないんだけれど、とにかく思い切って1万越えのkeenの靴を買ってみたら、こいつがまあ長持ちした。僕は非おしゃれなので革靴とサンダルとスニーカーが一足ずつあれば生活には一切問題がなく、平気で毎日同じスニーカーを履き続けるが、それでも二年の間僕の乱暴な足さばきにkeenは耐えた。伊達によく聞くブランドじゃない。

 さて、新しい靴を玄関に並べたところで、古い靴を見て僕は途方に暮れた。捨てるには惜しい。まだ履ける。そしてなによりも、沸いた愛着が捨てさせてくれない。普通の人はどういったタイミングで靴を捨てているのか、誰か教えてほしい。靴の捨て時を教えてくれる携帯アプリの開発が待たれる。

 思えば昔っから物を捨てるのが苦手だった。引っ越す前の机の奥には15年前使っていたMDウォークマンが眠っていたし、数十分ごとに針が止まる腕時計もバシバシ殴って無理矢理動かしながら使っていた。小さなころ近所の祭りで手に入れた大きなビニールバットは、しわしわにしぼんで抱き枕として使えなくなってからもなぜか大事にしまっていた。物を大事にするとか情愛が深いとか言えば聞こえはいいが、つまりは根っからのケチであり、自分の所有品が減るのに耐えられないだけなんだろう。

「でも、お前も捨てられたくはないよな?」と古い靴に尋ねてめくれたソールをパカパカ動かしてはみたものの、そこからは何の言葉も聞こえてくることはなく、僕は悩んだ挙句に結論を保留して、古い靴も新しい靴もサンダルも革靴も、全部まとめて靴箱の中にしまいこんだ。

 幸い靴箱のスペースにはまだまだ余裕があるから、いつ古くなった靴をゴミ箱へ放り込むのかの決断は随分長く先送りにすることができる。数年後の、今の僕には予想できない変わり果てた僕がきっといつかはその決断を担ってくれることだろう。

 でも、今の僕にも予想できる明日の僕はきっと靴箱から古い方の靴を取り出して、履いて出かけるんじゃないかと思う。今の僕には、そんな気がしている。