植込みの話

 雨が降っていたので、今朝は職場までテクテク歩いた。いつもなら自転車で5分足らず、風のように駆け抜ける道をのんびり15分。しかし心にゆとりはなく、職場に着く時間が遅れるせいで朝やらなければいけないことが溜まってしまうのが少し憂鬱だった。

 重い気分を抱えながら歩く傍ら、ふと道端の植え込みに目が留まった。なんの変哲もない、ありふれた植込み。棘のような小さい葉っぱが手を広げるように生えていて、腰くらいの高さの丸い形や四角い形に刈り込まれたり、あるいは全然刈り込まれずにぼさぼさ茂っていたりするアレ。こいつの名前、一体何だったっけな。昔は知っていた気がするんだが。

 よく見ると、うちの職場にもたくさん植えられていた。綺麗な直方体になっているものもあれば、中途半端に枝がびよびよ伸びているものもある。歩行者への配慮のためだろうか、歩道側の枝がバッサリ伐採されていて中央部の幹まですっかり見通せるようになったものもあり、それはすこしみっともない外見だった。人間の都合で勝手に植えられて邪魔な部分を勝手に切られるなんてお前も大変だなあとそういう思いを込めて少し撫でてやってみたところ、チクチクと手を刺してきた。安心した。どうやら反骨精神はまだ失ってはいないらしい。

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 帰宅してから名前を調べてみた。「植木」「植込み」「植込み 代表的」「植込み あれ」「植込み あのあれ」「植込み よく見るあれ」などで検索をかけてみたところ、なんとかそれらしいものが見つかった。コノテガシワという植物で、日本でよく見られる園芸品種はセンジュという名前がついているそうだ。

 コノテガシワ。センジュ。昔は知っていたような気がするからにはきっと昔は知っていたんだろうが、いまひとつピンと来ない。聞いたことがあるとすればコノテガシワなんて咀嚼しにくいほうではなくセンジュの方だと思うのだけれど、何度読んでみたところでピンとのピの字も来やしない。

 センジュ。センジュ。繰り返し呟いてみる。たとえ知っていたところで、特に話のネタにもならない。だけどこの名前は覚えておくべきものなんだろう、となんとなくそう思う。多分、駄菓子屋で売っている蛍光色のゼリーの商品名と同じくらいには。