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歯医者に遅刻した話

 気付いたら10時半だったので、歯医者の予約に遅刻した。もっと早く来てくださいと受付で叱られ、ドリルを使って歯を削られ、そして二千何十円かを徴収された。金を払ってまで苦痛を味わうなど、特殊性癖を持つ人のためにある風俗店と変わりない。何だってこんな目に合わなくちゃいけないんだ。

 

 ちなみに遅刻したということは本当だが、叱られたことと歯を削られたことは完全に嘘だ。話を盛る、というやつであり、往々にして僕はこういうことをする。

 この場合は、「遅刻」と「歯医者の診療」という部分を大げさに表現している。「遅刻」と言えば叱られること、「歯医者の診療」といえば歯を削られること。それぞれの単語から最も想起されやすいイメージを付加し、僕の体験を水増しする。なぜそんなことをするのかというと、その方が伝わりやすく、分かりやすく、そして面白くなるためである。歯医者に行ったというそれだけの出来事に、そうやって物語性を持たせるのだ。

 人々が理解して記憶に残すのは、出来事ではなく物語である。なので僕は「歯医者に遅刻した」という自分の体験ではなく、「歯医者に遅刻した」という物語を語る。そうでもしないと到底ブログなんてかけるものか。そのためこの物語に僕自身の姿はなく、曖昧な世界の中で曖昧な僕っぽい姿をしたキャラクターがコミカルな動きで不平不満を喚いている。

 話を盛るという行動はいかなる時代いかなる場所にも見られるようで、大げさな逸話や伝承は基本的には鵜呑みにしない方がいい。ラスプーチンもさすがに不死身ではなかったろうし、板垣退助も暴漢に刺されたときは多分「いてぇ」っつっただろう。河童の好物がきゅうりというのも肌の色にこじつけた作り話だ。河童自体は実在する。道頓堀でよく釣れる。

 

 ここ一か月ほど歯医者に通っている理由だが、右奥歯の虫歯を治療し、ついでに自爆用のスイッチを埋め込んでもらうためだ。右奥歯に自爆用のスイッチがあると何かと捗りそうな気がする。敵に捕らわれた場合でも国家機密を聴きだされる心配がなくなるし、会社で上司に叱られたときにも自爆することで反省の意を示すことができる。飲み会で一発芸を強要されたら右奥歯を強く噛めばいいし、万が一痴漢冤罪に巻き込まれた場合なんてもはや言うのも野暮である。

 そんなわけで今日も歯医者に行ったのだが、どうやら左の奥歯にも虫歯があるらしく、こっちには毒物でも埋め込んでもらおうかと思っている。仕掛けを作動した場合の結果は右奥歯と同様であるが、自爆用のスイッチと比べ毒物は見た目が少し地味になるのが難点と言えば難点だ。一発芸に使えなくなってしまう。しかし目立たないと言い換えれば長所と捉えることもできるので、うまく右奥歯と左奥歯を使い分けていけばいいと思う。

 言うまでもなく今日のブログは嘘ばかりで、本当のことと言えば河童に関する部分くらいだ。河童は実在する。頭部の皿はノリタケカンパニーリミテドが製造している。