歩道橋の話

帰省したら、近所の歩道橋が撤去されていた
その歩道橋は交差点の東側を南北に繋いでいて
斜めに渡れるわけでもなく、かといって交差点の信号待ちが長いでもなく
ほとんど誰にも使われていない歩道橋だった

昨日おれが見たとき、ほとんど工事は終わりかけていて
残すは基礎の部分だけになっていた
ちょっと見ない間に、歩道橋は影も形もなくなっていた

あの歩道橋、使ったことあったっけかな
たぶん二回くらいだ、それくらいしか覚えていない
一度目は十何年も前、中学生の時だ
寝坊して部活に遅れそうだったからおれは全力で走っていて
信号待ちをする時間すらも惜しかったのだ
歩道橋の階段を上り下りする間に信号の色は変わっていて
やっぱりこの歩道橋意味ねえなと思ったことを覚えている

もう一度はわりと最近のことだ
大阪マラソン、あれのコースにその歩道橋のあった交差点も含まれていて
その日の交差点は通行止めになっていた
おれは自動車教習所に行く必要があったから
自転車をかついで歩道橋を上り下りした
こいつも一年に一度くらいは役に立つものだ、とそう思った

今朝、荷物をまとめて実家を出た
工事はもうすっかり終わっていて
安全第一と書かれたフェンスも全部取り払われていた
後には真新しい、黒いコンクリートが敷き詰められていて
歩道橋の名残を示すのはそれくらいのものだった

一部分だけ色の違う道を見ながらおれは
ほとんど使わなかった歩道橋のことを思い出していた