一人前になった証としてマットレスを買う話

 社会人になって三年目となった。社会人三年目ともなると、さすがに焦りが出てくる。私は未だに自分のことを未熟な若輩者であると思っているし、なんなら会社内を歩く時も「若輩者ですけど~?」みたいな面をして歩いている。「若輩者なんですけど~~??」みたいな面を。若輩者面をしている。くだらねえと呟いて、若輩者面して歩く。あまりに若輩者であるという自覚が強すぎるので、電話を取る際も「はい若輩者です!」と言いそうになる。会議で発言するときも「若輩者が斯様な出過ぎた真似をして心苦しいのですが……」といった雰囲気を言外に漂わせている。最近は若輩者じみるのにもこなれてたので「若輩でサーセンっす」みたいな雰囲気になってきている。「じゃーセンっす」みたいにすらなってる。そういえば「最近お前調子に乗ってない?」とこの前先輩に言われたが、思い至る節が全くない。

 話を戻す。三年目になったということで、そろそろ若輩者を脱するべき時期がきたのであろうと私は考えた。若輩者を脱し、一人の社会人として、自分の両の足で真っすぐと社会に立つべき時期がきたのだと。

 一人前の社会人たる条件とはなんなのだろうか? 昨日、火曜日は休みを頂戴していたので、私はじっくり考えてみることにした。月曜の夜、翌日が休みなことに浮かれて買いだめしたウィスキーをジャバジャバ飲み、布団の横に積んだ漫画を適当に読み散らかして夜更かしし、二度寝三度寝を繰り返して昼過ぎに目覚めてカップラーメンをすすりながら、私は自分が一人前の社会人になるために必要なものを考えてみた。

 成熟した大人は、やはり己が力で己の生活を成り立たせられるべきである。しかし、なんとか生活ができる、その段階で止まってしまっては、その人の成熟度はそこで成長を止めてしまう。それで満足か? 生活を成り立たせたうえで、余力を持って生活の改善に臨み、更なる余力を得て更なる生活の向上を図る、そのような正の連鎖、成熟スパイラルに自己を置くことがより大いなる成熟へと向かう道なのではないだろうか。私は成熟したい。熟れに熟れたいのだ。バナナでいうともう余すところなく真っ黒になっているレベルまで。

 そういうわけで私、生活を改善すべく、マットレスを買いに行った。睡眠、それは生活の基盤である。睡眠を改善することは生活を改善させることに他ならない。なのでちょっと良いマットレスを買うことにした。といってもマットレスを買えそうな場所、山口県にはニトリナフコtwo-one styleしかない。ニトリナフコ。「お値段以上、お値段以上」とただコストパフォーマンスの一点突破を譫言の様に繰り返すばかりのニトリと違い、ナフコは名前から「two-one style」と、なんかこうスタイリッシュなイメージがある。意味は分からないけど、ちょっとシュッとした感じがする。なのでナフコに行くことにした。「お値段以上……」とニトリの悲しそうな声が聞こえた気がした。

 ナフコに着くやいなや、私はテンピュールを探す。良い寝具といえばテンピュールである。他は知らん。シモンズ? エアウィーブ? 聞いたこともない。テンピュールのみが寝具であり、神はテンピュールの上に寝具を作らずテンピュールの下に寝具を作らず、「テンピュールあれ」と神が仰せられたその時からテンピュールはそこにあった。ここまで根気強く読んでいる人はご存知かもしれないけれど、俺は気に入った単語をやたら繰り返すのが好きです。

 で、テンピュールのマットレスをみた。

 安いやつで¥48,600

 高ッ!

 いつも一週間分の朝食に買ってるバナナが1房5本で¥98やからお前、バナナに換算すると、えーと、お前その、あの、随分食えるわ!!

 

 結局、枕カバーだけを買って帰りました。

 マットレス? 社会人五年目になって一人前になってからかな。