小国の大臣になりたい話

 おれがなりたかったものといえば、郵便屋さん、カクレンジャー、水泳選手、脳外科、イワトビペンギン、球体、夜空など、いろいろとありますが、現在時点におきましてもっぱらなりたいものはといえば「お転婆な姫様に手を焼く小国の大臣」を他置いてありません。

 多分、才能あると思うんですよね。おれ。お転婆な姫様に手を焼く小国の大臣になる才能。「姫さまー!!」って言うの、山口県で一二を争うほどうまいと思います。「なりませんぞ姫さまー!!」って。日ごろから練習していますし。「姫さまー!!」の練習。しめ鯖も好きだし。「しめ鯖ー!!」とも上手に言える。「あぶりしめ鯖ー!!」って。「あぶり姫さまー!!」みたいな感じで。

 「お転婆な姫様に手を焼く小国の大臣」が魅力的なのは、自らの「脇役」という立ち位置を理解したうえで、受容している点であると思う。彼らはお話の主役が姫様であることを理解し、そのうえであえて「口うるさいじいや」という嫌われ役を買って出ているのだ。自己犠牲の精神のかたまりである。「全く、この国の行く末が心配ですぞ......」などと嘆きながらも、彼らのたしなめんとする姫様がゆくゆくは立派な女王となることを確信している。お小言ばかりの大臣への反発心を自立心へと昇華して、姫様が為政者へと育っていくことを。

 小国の大臣。彼らが目指すのは、「姫様がこんなに立派になられて、じいは感無量ですぞ……」というセリフを口にする日が訪れることだ。すなわち、自らが不要となる時がいつか来ることを理解しているのだ。それでも彼らは小言を言う。嫌われ役となり、脇役となり、姫様の踏み台となることを理解しながらも、姫様と王国の未来のために。格好いい。おれも必ずお転婆な姫様に手を焼く小国の大臣になりたい。異動願を出そう。まずはお転婆な姫様を生みそうな女王がいる国を探すことからはじめよう。

 

 

 人は死を迎える瞬間、21g軽くなる。これは魂の重さだと言われているが、翻って一日普通に過ごした時の体重の減少量は、幅はあるものの1kg前後にはなるそうだ。

 つまりは一日生き延びるのは、50回ぐらい死ぬこととおんなじくらい辛いってことなのではないか。

 一日あたり50個の魂が空へと昇っていく。

 

 それじゃあ明日も頑張って、50回死のうぜ。