people in the boxの話 ~その音楽の存在強度と、許されることについて~

 people in the boxの新譜である「Kodomo Rengou」がH30.1.24に発売され、昨日やっと届きまして、聞き惚れているところであります。以前「people in the boxについて語って欲しい」と宿題をもらったことでもあるし、良いタイミングなので、僕の思うpeople in the boxの魅力について書いてみましょう。

 

 さてpeople in the boxとは?

05年に結成した3ピース・バンド。
08年に福井健太(Ba)が加入し、現在のメンバーで活動し始める。
3ピースの限界にとらわれない、幅広く高い音楽性と、独特な歌の世界観で注目を集めている。

(公式サイト/Biographyより)

 公式の紹介が思いのほか雑。

 

 彼らの音楽の特徴として、3ピースとは思えない重厚で重層的な音の鳴り方、変拍子に代表されるダイナミックな曲の展開、イノセントで透き通るようなボーカル波多野の歌声などなどありますが、僕はここではやはり「極めて暗喩的な歌詞」を取り上げてみたいと思います。

 例えばこれ。

 

ー白昼夢が続きますように

 白昼夢が続きますように

 すれ違うベビーカーでまた会おうぜ (レントゲン)

 

 うん、なんのことだか良く分からないね。こういった「具体的な単語、動作、状況ではあるものの、背後に何か大きな意味、物語が隠されていそうであり、曲全体を眺めると妙に抽象的に思える歌詞」の綴り方を彼らは得意としています。その一見、無機質で歪な言葉の並びに、僕は深く惹かれてしまうのです。

 とは言え、歌詞を読み解こうとしなければpeople in the boxの音楽は味わえないというのではなく、むしろ全くその逆です。

 

言葉にできないものを表現するっていうのが前提としてあって、(中略)とはいえ、何か一つの正解というメッセージを発信しているわけではもちろんなくて、

 (People In The Box発、大衆音楽としてのアート×ロック - インタビュー : CINRA.NET、2010.10.5)

抽象的にとらえられやすいんだけど、言ってること自体、どれも具体的。それを俯瞰で眺めると抽象的になっちゃうのかもしれないけど――。(中略)一個一個のイメージははっきりしてるんだけど、つなげることによって、また新しいんだっていうのが好きで、それは音楽と言葉の組み合わせというか。こういう音楽にこの言葉が乗るとさらにヤバイよな、みたいな。そういう化学反応を楽しんでますね。

 (delofamilia × People In The Box 対談インタビュー【1/3】 | delofamilia

、2014.1.27)

 

 これらの波多野氏の言葉から、people in the boxの歌詞を音楽から切り離して「ある固有の意味、物語を内包するもの」として断定的に解釈するのは誤りに近いのだと僕は考えます。正しい読み方などは存在せず、何なら正しい感じ方も存在しません。ただ、聴く人それぞれの読み方、感じ方があるだけ。僕らは好きな情景を音楽に重ねて思い浮かべて良い。

 people in the boxの音楽の優れた点は、その「聴く側へ委ねる姿勢」にあります。共感の押しつけも、過度の歩み寄りも、そこにはない。彼らの音楽はただ音楽としてそこにあります。僕らはそれを受け取り、音楽を自由に解釈することができる。その解釈を通して、むしろ僕らは僕ら自身を知るのです。people in the boxの特異性は、時期により多少の変遷はあるものの、そこにあります。彼らの音楽は単なる表現に留まるものではなく、聴き手の解釈を入出力する装置にもなりえるのです。無機質な印象を与えながらもその音色がどこか「優しい」理由は、聴き手に委ねられたその解釈の自由度ゆえであると僕は思います。

 元気を出せ、頑張って、そんなテーマを歌う曲はこの世に数ありますが、疲れている時の僕はそういったこちらに積極的なアプローチをしてくる曲よりも、people in the boxの曲に救われます。それは彼らの音楽がただそこに存在するからであり、そしてその音楽の傍で僕らが存在することを同時に許してくれているからなのです。

 

 さあ御託はここまでだ! 好きな曲の紹介行くぜ!! 全アルバムレビューとかしようと思ったけどさすがに疲れるのでしないぜ!!


People In The Box-She Hates December

 1st mini albam「Rabbit Hole」より。
 透き通るイントロから言葉を置くようなメロを経て、代名詞ともいえる変拍子を取り入れた空間を引き裂くようなサビにいたる初期peopleの代表曲。この完成度が1stの1曲目ってどうかしている。
 「もたらされぬ救い 残虐な朝の光」や「月が消えたら僕らだ」と、絶望を匂わせる言葉が並ぶ。冷え切った12月の夜を思う。凍り付いた空気の中、ビルの屋上で、前にも後ろにも進めない少女が立ち尽くしている。

 

  2nd mini albam「Bird Hotel」より。
 この曲を紹介しない訳にはいかない。俺が初めてpeople in the boxに触れた曲であり、個人的にpeople in the boxの異端性を最も的確に表している曲でもある。上にある「こういう音楽にこの言葉が乗るとヤバい」を体現している。歌詞の意味はさっぱりわからん。ただヤバい。

 


People In The Box - 火曜日 / 空室 (LIVE)
 3rd mini Albam 「Ghost Apple」より。
 曲がそれぞれ曜日の名を冠するコンセプチュアルアルバム。ここからアルバム全体の完成度というか、引き締まり方がぐっと増しているように思う。
 俺がpeople in the boxを「無機質」と評する理由はこの曲が分かりやすい。疾走するメロディーに乗っかる、ただ事象を羅列していくだけの歌詞。感情表現は一切ないが、しかしその裏側には「彼女」の欠乏による如何ともできないむなしさがある。

 


People In The Box 旧市街

 2nd Albam「Family Record」より。
 はい出ました。どう生きればこの曲が作れるようになるんだ。Things Discoveredの付属冊子インタビューで「耐久力のある曲」と波多野氏が評していたが、それを通り過ぎてもはや底なし沼のような曲である。聴けば聴くほど聴きどころが見つかる。なんだこれ。俺に解説できることはなにもないので、とりあえず聴いてくれ。頼む。俺の文章は読まなくていいから、この曲だけでも聴いてくれ。

 


People In The Box「ニムロッド」

 4th mini albam「Citizen Soul」より。
 本人たちが「分水嶺となった」と評する作品であり、ここを経て音楽としての表現の幅が明らかに広がっている。歌詞も以前の「無機質感」が少し薄れる。俺が一番好きなアルバム。peopleを聴き始めるならこれと「Rabbit Hole」を個人的にはオススメする。youtubeにはなかったが「親愛なるニュートン街の」がハチャメチャに好きであり、この曲を聴いている時に設定を思い付いたお話をもう4年くらい温め続けている。もっと上手く書けるようになってから書く。
 曲紹介。people in the boxの代表曲と言っても良い。緩急の付け方が最高。変化に富んだ曲展開のせいで一切飽きることができない。
 歌詞としては「火照った大地」「飛行船」「8月」「あの太陽が偽物だってどうして誰も気付かないんだろう?」と随所にきな臭いフレーズが見受けられるものの、しかしそれが示すものがこの曲の本質なわけではない。それこそ爆弾のように投下される数々のフレーズがもたらす情景の変化を楽しもう。MVがまた秀逸。

 


八月 - People In The Box

 3rd albam「Ave Materia」より。
 アルバムのトリを務める曲。優しく語りかけるように歌いあげる曲であり、珍しく、明確なメッセージを感じる。「愛も正しさも一切君には関係ない 君は息をしている」。そう繰り返すこの曲がもたらすのは圧倒的な許容である。存在の強度だけで聴き手を許容していたpeopleの音楽が、外部の存在まで補強し始めた決定的な曲。だが、この曲は決して無制限に優しくはない。それは一番のサビの、「きみの世界で選べるのはただひとつだけのボタンさ 機械のように「その階には止まりません」とぼくは何度も繰り返すけどきみには冗談にしか聞こえない」いうフレーズから読み取れる。人は望んだ場所に行けるとは限らない。しかし、それでも「君は息をしている」。この曲は決してこっちに歩み寄ってはくれないが、しかし僕らの生を許容してくれているのだ。
 個人的な見解だが、ここ以降people in the boxの音楽は少し方向性を変える。以前の孤独な、孤高な存在感が薄れるものの、聴き手への意識を音楽に内包するようになる。しかしそれを聴き手に歩み寄ることによって実現するのではなく、音楽自体に聴き手を包括するような形式で実現するあたりが最高である。

 

midiしかなかったのでCD聴いてね

 5th mini album「Talky Organs」より。
 「大きな音が聞こえた 灼けるように暑い日で」と始まるこの曲。どことなくニムロッドに似たモチーフを感じるが、しかし着眼点としては曲の後半、最後のサビで力強く「君を根拠に生きていくから 僕は強くなれるかな」と歌う部分。良く出来た青春小説のクライマックスにも似たカタルシスを得られる。得たくない? カタルシス得たくない? じゃあCD聴いてください。

 

 

 新譜「Kodomo Rengou」を聞きながらこれを書きましたが、「無限会社」の攻撃的なベースライン、「街A」の変拍子、複雑な展開、畳みかけるように単語を羅列するサビ、「動物になりたい」の透き通った音と声、そして一見キャッチーなリード曲「かみさま」へと繋ぐ流れ、現在までのpeople in the boxの集大成といってもいい、直近の作品ではもっとも完成度の高いアルバムだと思います。

 ここまでわざわざ読んだ人はもう入手済みだと思いますが、念のためAmazonへのリンクを貼っておきますね。さあ買ってくれ。

 

Kodomo Rengou

Kodomo Rengou

 
rabbit hole

rabbit hole

 
Citizen Soul

Citizen Soul