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タケノコを掘る話

 正直なところ、おれはタケノコを舐めていたのだと思う。

 他部署の上司がなんと別荘を持っているというので、お邪魔することになった。山に分け入り道なき道を走り抜けた先にあるその別荘の周辺では、タケノコがよく生えているという。周辺によく生えているものを無碍にするのも心苦しいので、本日のイベントはタケノコ掘りとBBQに決定した。

 タケノコと言えば思い浮かぶのはあの白い切れはし、煮るなり焼くなりされて食われるだけのただの食糧だが、しかし本日現地に出向き、実際に出会ったタケノコは生半可な迫力ではなかった。所詮は竹の幼少期にすぎぬ、子供の相手などこの程度で十分よと軍手のみでタケノコ掘りに挑んだおれはその傲慢さをすぐさま悔やむこととなる。

 茶色の毛皮を身にまとい、節々から尖った葉を生やしたその姿は実に威圧的であり、もはやタケノコというよりは猪か何かが地面から生えてきているようにも見え、いつこちらに鼻息荒く突進してくるかとき気が気でない。なるほどこれが野生のタケノコかとおれはたじろぎ、隣にいる同期などは「ヒィィ」と悲鳴を上げながらもはや腰を抜かしている。取りに来たはずのタケノコを前にこの醜態、どちらが食われる側なのかわかったものではない。

 このままうかうかしているとタケノコの養分にされてしまうに違いないと、なけなしの勇気を振り絞り、おれはタケノコの頭頂部を掴む。頭頂部さえ掴めばこっちのものだ、頭頂部を抑えられて参らない動物はいない、おれは勢い込んでタケノコを引き抜きにかかる。抜けない。びくともしない。左右に揺らしても前後に揺らしてもタケノコは一向に抜ける気配を見せず、鋭く尖った葉がおれの軍手を貫通する。なんという反骨心、敵ながら天晴である。これは止むを得ぬと作業を一時中断し、隣の同期の様子を窺ったところ、野生のタケノコに頭頂部を掴まれて前後左右に揺すぶられている。タケノコほどは地に足のついていない彼のことだ、収穫され、持ち帰られ、同期の水煮にされてしまうのも時間の問題である。仕方ない、戦場に犠牲はつきものだ。

 ここでおめおめと逃げ帰るわけにもいかぬと野生のタケノコとにらみ合いを続けていたところ、颯爽と現れたのが他部署の上司のその父だ。齢八十を軽く超えるというご年配である。あいやご老人無理なされるな、ここは我々今後の世界を担う若者たちに任せてくだされとおれはいきり立ち、その諫言を気にも留めずにご年配は前へと進み出る。振りかざしたその手に握られているのは小さなクワであり、ご年配は正確無比な狙いでクワを野生のタケノコに振り降ろす。

 一撃。まさに一撃であった。古代より崇められてきたご神木のように大地に根をはっていたはずのタケノコはご年配の一撃により、あっけなく地面に転がり落ちる。その後もご年配は周囲を取り囲むタケノコにクワの一撃を加えては掘り起こし加えては掘り起こし、一騎当千、八面六臂、獅子奮迅の大活躍。この光景を目の前にしたおれの驚愕が伝わるであろうか。ドラクエで例えるならばタケノコがメタルスライムであり、ご年配が魔人斬り絶対当てるマンである。いかにメタルスライムが強固な防御力を備えていようが魔人斬り絶対当てるマンの前では無力である。ばっさばっさとなぎ倒されていく。

 やがてご年配はここら一体のヌシかと思われる莫迦でかいタケノコと相対する。その威風堂々たるいでたちはもはやタケノコではあるまい、子供と呼ぶには成長しすぎている。つまるところ竹である。竹に近いタケノコである。ドラクエで例えるならばメタルキングである。しかし悲しいかな、いかにメタルキングであっても魔人斬り絶対当てるマンの前では無力である。

 かくしてタケノコは見るも無残に刈り取られ、あとに残ったのは大量のタケノコが入った袋と、傷一つ負わないご年配と、タケノコに捕食されつくした同期の抜け殻であった。今後の世界を担うはずのおれはタケノコの入った袋を担い、ご年配の後ろをひょこひょこついていく。お父さんマジやべーっすねー、尊敬っすわーと彼へのよいしょを忘れずに。そして、哀れ犠牲になった同期に、哀悼を捧げながら。

 持ち帰ったタケノコは煮たり焼いたりして食った。まあそれなりにうまかった。