2015-01-01から1年間の記事一覧

帰っている話

かつて通学に使っていた京阪電車、その始発駅である淀屋橋。 朝、大阪から京都に向かう人々は、示し合わせたように進行方向左側の座席に座る。右側の座席は南東に面しながら線路を進んでいくことになるから、朝陽が差して眩しいのだ。その光景はまるで日陰に…

また歯医者に行く話

何故毎週歯医者に通わなければいけないのかと尋ねると、虫歯とはそう簡単に治らないものだから、らしい。 診療室のブースに入って、椅子に腰かける。歯医者にあるもののうち、背もたれが倒れるこの椅子と自動的にうがい用の水を注いでくれる給水器の二つが魅…

部屋の話・夢の話・コメントの話・タイトルの話・雑な話・ホームアローンの話・忘年会の話

部屋に帰ってくると俺のものがいっぱいあって、「ああ、ここは俺の部屋だ」と思う。俺が好きなものや欲しかったものがそこら中に転がっている。まるで俺自身を切り離して部屋中にまき散らしているようだ。ここは俺の部屋だと目印をつけるために。丁度犬が電…

チンする話

今までなんとかやってはきたのだが、「電子レンジがあればウインナーをチンして食べることができる」と気付いたのでレンジをネットでショッピングしてしまった。 おれが住んでいるのは会社の独身寮で、一階に食堂がある。食堂ではご飯を食べることができる。…

歯医者に遅刻した話

気付いたら10時半だったので、歯医者の予約に遅刻した。もっと早く来てくださいと受付で叱られ、ドリルを使って歯を削られ、そして二千何十円かを徴収された。金を払ってまで苦痛を味わうなど、特殊性癖を持つ人のためにある風俗店と変わりない。何だって…

植込みの話

雨が降っていたので、今朝は職場までテクテク歩いた。いつもなら自転車で5分足らず、風のように駆け抜ける道をのんびり15分。しかし心にゆとりはなく、職場に着く時間が遅れるせいで朝やらなければいけないことが溜まってしまうのが少し憂鬱だった。 重い気…

足の爪の話

足の爪を切るのは難しい。爪が厚いので刃が入りにくく、隣の指が邪魔をする。人間の身体は足の爪を切るようにはできていない。人間はもっと進化の過程で足の爪を切りやすいように体の形を変化させてもよかったのではないかと思うことがあるけれど、生き残る…

誰も知らない話

ヘンリー・ダーガーを知っているかい? 世界一長い小説を書いた男性のことを。 彼は幼いころ家族と生き別れたり、知的障碍者と見なされて施設に収容されたり、そこから逃げ出して何百キロも歩いて生まれ故郷に帰ったりして、その後教会で何十年も掃除人とし…

『屍者の帝国』の話(あるいは言葉と意思と、そのついでの話)

山口ではやっていない映画を観に来ました pic.twitter.com/IqJatzzqCX— 鰐人 (@wani_jin) 2015, 10月 24 ”君には、僕が見えているか” 屍者の帝国を観た。ので、感想でも書いていきたい。とりとめのない話になると思うが、同時に重要なネタバレもない話にもな…

眼鏡がどっか行く話

飲み会の後でどっか行っちゃいそうになるものと言えば財布、鍵、携帯を抑えて堂々の一位が眼鏡ですけれど、皆さんはどうやって対策してますか? あれ? 普通は眼鏡どっか行かない? そんな馬鹿な。 どう考えても眼鏡はどっか行っちゃいますよ。 それを今から…

古い靴の話

丁度セールで安くなっていたので、VANSのスニーカーを買った。と、こう言うだけでおしゃれに疎い僕はおしゃれピープルたちに馬鹿にされないだろうかと少し不安になるのだけれど、別にVANS自体はダサくないよね? VANSをABCマートで買うのはセーフだよね? こ…

アド街を見た。

アド街を見た。ほんとだよ。不意に人混みから現れたアド街は、宙をひらひら舞いながら何度か瞬いたかと思うと、フッと姿を消したんだ。嘘じゃない。僕はアド街を、見たんだ。 — 鰐人 (@wani_jin) 2014, 5月 8 アド街を見た。それ以外のことは何も覚えていな…

休日の僕と時間を奪う灰色の男たちの話

車を手に入れてからというもの船を手に入れた直後のDQ2並みに行動範囲が広がり、休みの度に島や、山や、島や、島や、山に行っている。山口県は島と山へのアクセスビリティが非常に優れている。しかし近所の島はもう行きつくしてしまったので、これからは遠…

そういうツイートのまとめ

罠にかかっていたハブを助けた翌日、胴の超長い美女が訪ねてきた。彼女は「覗かないで下さいね」と言い残して部屋に籠もり、勿論俺は部屋を覗いた。部屋の中には琥珀色に輝く液体とつぶらな瞳のハブが入った瓶が置いてあり、何もここまでしなくても、と瓶を…

砂や岩を見た話

友人二人と旅行に行ってきた。砂に登ったり穴に入ったりしたのがおよそ3割、車の運転が5割を占め、残りの2割は宿で酒を飲んでいた。 道の駅で買ったそれなりに良い大吟醸をうめえうめえと言いながら飲み、飲み足りないと宿一階の自販機で買い足した第三の…

舗装された道の話

コンクリートによって舗装された道を生まれてこの方歩き続けてきた僕らは、もはやコンクリートネイティブと呼んで差し支えない。 そう呼んだところで一体何がどうなんだって話なんだけれど、日本全国に存在する道のうち大多数が既にコンクリートでびっしり固…

「登る」

富士山を見て「うわぁ、高い!」と、エベレストを見て「うわぁ、もっと高い!」と、そうやって無邪気にはしゃいでいるうちはまだよかったはずなのに、そこをどうトチ狂ったのか「じゃあ富士山とエベレストの両方をマリアナ海溝に突っ込んだら丁度いい感じに…

降ってくる話 ・ 偽物の話

なんか降ってこないかなあ、って僕はずっと思っている。 なんでもいい。なんでもいいけれど、雨や雪みたいにありふれているものよりはもっと突飛なものがいい。UFOとか、恐怖の大王とか、飛行石を身に着けた少女とか、「おーい、でてこーい」って声とか、巨…

「非平面上の非直線」

y = x。 あまりにも代表的すぎるそんな一次関数に自分をなぞらえることを許してもらえるなら、あの少女はきっと y = 2x - 15 のようなものだったのだろう。 ポケットに手を突っ込みながら口を半開きの間抜け面で変わり映えのない一本道を歩いていた僕は、x =…

良くわからないもの、例えば火の話

良くわからないものって、意外と身近にたくさんある。 地球の半径。約6000kmって、どうやって測ったんだろうか? ウィスキーの種類。僕はにわかだから煙っぽい風味があればそれだけでもう好きになる。ターミネーター2でシュワちゃんが落ちる溶鉱炉。溶鉱炉…

ぐるぐるする話

働いて得たお金が生活するために消えていく。 これは至極当たり前のことなんだけれど、妙にむなしいことのように感じてしまう。満足した生活を送るためには、生活のうちのそれなりの割合を労働に捧げなきゃならない。生活のために労働があったはずが、気付い…

落ちる話

消防署の待合室には穴が開いていて、いざというとき消防士たちはそこから飛び降りて迅速に出動する。 そんな感じの映像を見た記憶があるんだけれど、あれ、実在するんだろうか。一秒でも早く出動するためだとか。 緊急さでいえば朝出勤する時の僕もそんなに…

「言葉の海」

彼女らは海女と呼ばれ、彼女らが海女と呼ばれるようになってからそこには「言葉の海」という名前が付いた。 海女と呼ばれるようになったのは、その出で立ちや生業が従来の海女に酷似しているからだ。彼女等はゴーグルを身に着け、籠を片手に、動きを阻害しな…

「コテージの幽霊」

ここらで一つ、僕が昔見た幽霊の話でも少ししてみようかと思う。丁度折よく、彼のことを思い出したところなんだよ。 兄貴が中学に入って部活で忙しくなるまでは、よく家族全員で旅行したもんだった。その中で最も楽しみだったのは、毎年八月上旬に訪れていた…

俺の話

身体を売ってきた。身体といっても400mlの血液で、売ったといっても対価はアクエリアスとアタックの小袋三つ分だった。痛みを我慢するには安すぎると思うべきか。あるいは、いつもただ漫然と身体を流れているだけのこいつに値段が付くだけありがたいと思うべ…

「手を繋ぐ」

手が生えてきた。人間の手である。誰のものとも知れぬ右手が、部屋の片隅から生えてきた。 非は確かに俺にある。ジメジメしたこの季節に部屋の換気を怠って部屋の隅にひと月分の衣類の山を築き上げていたのだから、その下から何か生えてきくるのは想定されて…

突然理容師に刺されないための話

「そうしようと思えば易々と人を殺めることのできる職業」として有名なのが理容師ですね。旅客機や鉄道の運転手も引き起こしうる殺戮の規模が桁違いに大きいことから良くその名を挙げられますが、自身に危害が及ぶ可能性が非常に小さいという点で、易々と人…

美味いコーヒーの話

一か月ほど前にネスプレッソを買った。カプセル式のエスプレッソマシン。 そこまで舌が肥えていないので、正直なところコーヒーの味の違いとやらは良く分かっていない。「深みのある苦味」とか「酸味の中に隠れるフルーティーな香り」とかいろんな講釈に目を…

健全な話

ミドルネームとして「クリーン」がついた。同期の間で、僕はそういうことになった。あまりにも清廉潔白すぎるためである。主にギャンブル関係と、異性関係の辺りが。 そんなクリーン・鰐人、名に恥じぬ行動を取ろうと思い仕事終わりに十五分ほど歩いて近所の…

またもや喉が枯れた話

今月から味噌が有名な某県に来ているが、案の定喉が枯れた。慣れない土地に来ると僕の喉はたちどころにやられる。赤ん坊さえもあやせてしまいそうなガラガラっぷりである。いい加減にしてほしい。同じ過ちを何度繰り返せば気が済むのだろうか。過去の失敗か…