近所のスーパーからDr.pepperが姿を消した話

 そんなわけで、風呂上がりのおれを冷蔵庫で待ちかまえてくれるものは何もない。あの突き抜ける爽快感も、目の覚めるような香りも、何も。

 そういった話をした。会社の食堂で、昼飯を食べながら。ライス小のお茶碗に山盛りにした白米を頬張りつつ、おれはこの喪失感をたどたどしく語った。「飲んだことないわ」と先輩は言った。おれは目玉をひん剥いた。「教えてくれ」と先輩はいった。「Dr.pepperがどんな味なんかを」

 ひん剥かれた目玉を目蓋のうちに戻しながらおれは語ろうとした。Dr.pepperのあの独特な風味を。おれの持てる語彙力の全てを用い、この世の有象無象あらゆる比喩を駆使して語ろうとした。

「それはまるで、Dr.pepperのようで」とおれは言った。水を一口飲んだ。それからこう言った。「Dr.pepperのような飲み物なんですよ」

「最後まで最初から最後までDr.pepperやんけ」

 おれは頷いて、白米を食べる作業に戻った。ほかにどんな伝え方がある? おれがどんなに言葉を凝らそうとも、Dr.pepperはDr.pepper以外のものではないし、そしてもう二度とおれの手には戻らないのだ。そしておれは気付く。Dr.pepperの味を思い浮かべながら食べる米はなんかあんまりおいしくない、と。

 

 で、家帰ってからしょうがなく代わりに買ったコカコーラゼロを飲んでるんですけどコーラはコーラでやっぱうまいんですよね。あとおれはルートビアも好きです。コーラに湿布漬けたら自家製ルートビアできるかな。腹下しそうだからやめとこうかな。