初めてコインランドリーに行った話

 洗濯30分で200円、乾燥20分で200円。相場は知らないが、これはきっと安いのだろう。洗濯機も乾燥機もなく、自分で衣服を手もみし、太陽に衣服を乾かしてもらう手間を考えると。しかし前者の200円は僕の省力にはなるけれど、後者の200円は太陽の省力にしかならない。感謝しろよ太陽。今日の仕事は200円分だけ楽なはずだ。雨天で日差しはかけらも見えないけれど。

 今日の買い物はもうすっかり終わらせてしまったのだったから、乾燥機が回る20分のあいだ、ぼんやりbronbabaを聴きながら、衣服のもみくちゃにされる様を眺めていた。数分ごとに回転する方向は切り替わり、衣服はぐるぐる宙を舞う。滝つぼの激流に揉まれる小魚みたいに。あるいは社会に揉まれる僕みたいに。二つ目のほうはたぶん嘘だ。僕が勝手にここでぐるぐる回転しているだけなのかもしれないし、実際は回転すらしちゃあいないのだろう。

 入れ替わり立ち代わり、おどろくほど大勢の人がコインランドリーを訪れ、乾燥機に私物を押し込んでいく。太陽の調子が悪いものだから、代わりに乾燥機に仕事を押し付けようって腹らしい。たくさんの衣服を飲み込んで乾燥機はぐるぐる回る。乾燥機の逆トルク作用で地球の自転は少しずつ加速する。これも嘘。言うまでもなく。

 洗濯機と乾燥機の中身が慌ただしく入れ替わるように、人々も入れ替わる。僕もやがては外に出る。コインランドリーの外へ。乾燥機の回転の外側へ。そこに回転はないか? 多分あるのだろう。お金は循環し、資源は再利用され、社会は回転し続けているのだから、僕もその流れに合わせて回転せざるを得ない。明後日から僕は社会復帰するらしい。これは嘘じゃない。しょうがないけど渋々行こうか、回転する準備はできている。たぶん、一応ね。