「いや、友達になれそうもねぇ~」
その写真を見た瞬間、俺はそう口走っていた。
高校時代の、久しぶりに会う女友達。彼女が差し出してきた今の彼氏の写真。
彼の写真を見た瞬間だった。
その髪にはメッシュが入っていた。
その写真を見たとき、俺はどうしてもそう言わざるを得なかったんだ。
俺の言葉を聞いて彼女は憤懣やるかたない素振りでプリプリしていた。そりゃその気持ちもわかる。数年会っていなかった、ただ顔なじみだってだけの野郎に、「お前の大事な恋人のことを、俺はどうにも好きになれそうもない」と言われたんだ。憤りもするってもんだろう。事実「知らない間に、そんなにひねくれた考え方をする子に育っちゃって......!」と彼女はこぼしていた。お前は俺のお母さんか。
しかしながら、俺の言葉に驚いてしまったのは、彼女よりもむしろ俺のほうだったに違いない。自分がそんな偏見を言ってしまったことにだ。「髪の毛にメッシュが入っている」ただその外見上の一点だけで、他人を決めつけるような言葉を発してしまったこと。俺にはこんな偏見があったのか。俺は自分の持つ視野の狭さに、自分の言葉を通さなければ、気付くことができなかったのだ。
慌てて俺は自己弁護した。
「俺は『自信がある人』が苦手なんだ」
「彼らは自分の優れたる点を確信している」
「彼らの前では俺は己の矮小さに気づき、丸裸になったような気持ちになる」
「髪にメッシュを入れている人」
「彼らは自分の容姿に自信を持っているんだ」
「じゃないと髪にメッシュなんて入れないだろ?」
「『髪にメッシュを入れてください』って美容師に頼むんだぜ?」
「頼めるか、それ。メッシュ入れてくださいって?」
「俺には到底無理だ」
「だからこそ、彼がとってもまぶしく見えるんだ」
「だから俺は彼とは仲良くなれそうにないんだ」
完全に詭弁だったので逆効果だった。
彼女と袂を別ち、一人になってから、俺は反省した。それはもうしこたま反省した。一度もあったことのない他人を外見だけで判断するのなんて愚の骨頂だ。愚の骨頂の骨頂だ。外見に内面は、そりゃ多少は現れるかもしれないけれど、かといってそれは一部にしか過ぎないだろう。なのに俺は一枚の写真だけで他人を判断した。友人の大切な恋人を、その人格を推し量ってしまったのだ。これは恥ずべき愚行だ。
なので、一旦、耐性をつけてみることにした。
いややっぱ仲良くなれそうにねぇ~。